大きなベッドに、天蓋はあってもなくてもかまわない。
大人でも3人から5人は眠れるサイズといってもいいだろう。
部屋はだだっ広く、天井は高く、窓は大きく。
すぐそとにはクワズイモ、アレカヤシ、そのほかのヤシやシダ類が生い繁り、まるで窓枠を額縁にした絵画のよう。
この部屋にいると、まるで屋外にいるみたいな気分になる。
少し高台に位置していて、潮騒までは聴こえない。
大型客船の汽笛は聴こえる。

古い木で造られた長い階段を下ると、両脇の明るい黄緑色の茂みの間から砂浜がのぞく。
どこまでも白く、眩しい。
素足になってそっと降り立つ。
サンゴのかけらでけがをしないように、そっと歩く。
グラデーションの青緑を遠目に、波打ち際まで近づく。
カモメが飛ぶ、小魚たちが煌めく、アダンの葉が揺れる。

呼び声が聴こえた気がして振り返るが誰もいない。
気のせいかと向きなおすと、波間に仲間たちが浮かんでいるのが見える。
ショートボード、ロングボード、ボディボード。
飲まれては立ち、立っては飲まれを繰り返し、そういう生き物のよう。
すべるように、乗れたとき、その画を逃さない。
ファインダーを合わせる。
シャッターを切る。
連写。
レンズのなかのその人と目が合う。
笑顔。
とても大きな、明るい。
ピントが合う、すべての。
ベストショット。

裸足の足裏の砂が、やさしい波に持っていかれる。
ふいに、よろめく。
持ち直し、カメラをななめがけにして、木の根に腰かける。
その目の高さで、もう一度愛機をかまえる。
今度は広角で。
仲間たちが、光る波間で宝物のようにきらきらと輝く。
それをとらえて瞬間を刻もうとする自分もまた、南中する陽の光にこれでもかというほど焦がされている。
左手に持つペットボトルが汗をかき、なかのレモン水も光を集める。
ごくりと一気に飲み干して、立ち上がる。
鳥の声が響く、高く、長く。
空腹に、すこし遅めのランチを想う。
タコミートをサンドイッチにしてもう一度出直そう。
腹ぺこの彼らに、美味なる糧を。

存在すらも忘れていた電話が鳴る。
遠い故郷の国から、懐かしい声が届く。
そこにもまた仲間たち。
南の風を衛星を経て、伝える。
声に色がつく。
明るい、きれいな色が。
耳からその色を摂取する。
存分に吸って、電話を切って、今度ははき出す。
元気の出ることばと一緒に。

「ごはん持ってくるねー!」

波間から、仲間たちが親指でサイン。

屋外のような家に、駆けもどる。
とても短い道すがら、何度かシャッターをきりながら。