5年と少し前の秋のこと。
小型旅客機にひょいと乗り込み、南の島までひとっ飛び。
美味しいお土産を山ほどスーツケースに詰めて、カラカラコロコロアスファルトの道を行く。
駅から実家まではおよそ30分。ちょっと長い。
夕暮れどき、空は水色から桃色のグラデーション。
夏の名残の雲はうろこ模様。
汗をかきかき、膝はよろよろ。
着信音、まだスマホじゃなかったな。
母からの「おかえり」。
空港から、仕事が終わりがけ狙ってメールを送っておいたのだ。

いまどのへん?
橋のところ、信号の。
信号の?
うん、びわの木のところ。
どうする?さき帰る?
待ってる、びわの木のところで。

言いまわしが、絵本や童話のようだと後から笑って話した。
そのびわの木は、街を流れる川の中腹に残る小さな島のような陸地にひっそりと、それでもしっかりと生えていて、季節になると実をつけるらしい。
私はそれを見ることなく、街を出た。ひさしぶりに訪れる故郷はすこしだけよそよそしい表情を見せる。
ものすごい量の情報やことばが駆け抜けていく。
まるで新幹線から眺める景色のように、豪速で。

駆け抜けているのは自分のほうなのか。

それから無尽蔵に迫り来る、新しい景色。
思いがけない笑顔、かわいいやりとり、美しい予兆。
幾度となく、とめどなく。