友人に付き添って、占いの店に行った。
待合室にて約30分、人の出入りはちらほら。古びた丸椅子と、ショーウインドウ用の、わずかに虹色を放つスポットライト。
小さな本棚に並んだ書籍は、みな占星術やおまじないにまつわる内容だ。これまでに何人の客がそのページをめくってきたのだろう、傷みが激しい。独特の気配を醸し出すその場所に、長くいたいと思わなかったのは、それが地下に位置しているからかどうなのか。累々たる人々の念に、おされてしまったのかもしれない。

また別の日に、ネイルサロンを訪れた。
普段は馴染みのない場所だ。予約の電話の段階では、その店舗の内装がどんなものかは想像がつかず、わくわくしながら足を運んだ。ビルの一階の一室、費用をかけたスタイリッシュな店構えではないが、整然としている。こまごまとしたグッズが所せましと並べられ、職人の工房のようだ。爪のアートも、シンプルかつ繊細で品が良く、店の雰囲気に似つかわしいできあがりだった。

さらに別の日、いくつかの資格の手続きのため、街にある公的な機関を訪れた。
どっしりとした大きな建物と、遠くからもわかるような看板や案内のない、そして色彩のない、ものものしいようす。
その建設物のなかを自由に動き回るには特別なカードが必要で、出入口でそれを借りるための登録のようなことをしなくてはならないと決まっているらしい。電子キーを開けてなかに入ると、廊下の天井はものすごく低く、そして暗い。狭いその通路を通って、目的の部署を探す。歩きながら、これはどこかに似ていると思った。
船の中だ。
必要に応じて防火&防水扉が閉まり密閉できるようになっているその構造とよく似ている。まるで、要塞のようだ。 
外の開けた空が恋しくなる。

整理のつかぬまま近日訪れた場所について書き起こすと、空間についての考えが思い起こされた。

夕暮どき、朝焼け時間に、近所を散歩する。
その空が、遠い異国を思わせる圧倒的なグラデーションで迎えてくれる。
冷えた冬の空は、水で薄めたような明るいブルー。口あたりのよいソーダ色。地表近くのピンク色が混ざって、ほんの少し酸味を含んだラムネ色。
その端を霞ませて、ぽっかりぽっかりと浮かぶ雲、向こう側の光を透して、輝く。
刻一刻と、デザインと配色を変える夕刻の大空。
目をはなせない、瞬間の美しさ。
ほんのひとときの、贈り物。
貴重すぎる、深い味わい、堪能して。
やっぱり、屋外にはかなわない。

それでもヒト科の生物、人間の創造する心地のよい空間は、清々しく、ときに甘くなめらかな後味を残し、よき記憶として胸に、身体に、刻まれる。
まるで澄んだ暖かい水のなかを泳ぐような、潤いに満ちた空間を私は創りたい。
自然の力を、大地と海と空の力をふんだんに使って。そのエネルギーを、ありがたく借りて。