無伴奏チェロ組曲 J・S・Bach

太い太いパイプを通る。
壁面は厚く、木肌は温かい。
そこを抜ける強い音、重なり、交わり、一体となる。
ねじれながら、揺れながら。
確実に前へ、前へ、その向こうへと。
幅の広いステップを踏み、上がり、下がり、また上がり。

繰り返す主題。
しつこく、甘く。
せつなく、激しく。

身体の中心から、世界に開かれる宇宙の魂。
こみあげる、突き抜ける。
エピローグの高まり。
ほとんど悟り。

再生、再生、再生。

サウンドのミルフィーユ。
一度に召し上がって、とろけるように。

遥か昔から伝わる、美しき音の塊。
絶妙な取り合わせ。
バッハ殿、時代は変わってここは日本。
私たちはあなたの作品を現代もこうして愛でています。

何千、何万、何億の人間の、記憶が宿る。
音の、一粒一粒に。
その、香り立つような艶めきに。
煮えたぎる欲望も、ささやかで逞しい願いも。

どれだけの感情が、情動が、この曲に織り交ぜられてきたのだろう。
時を越えて、長く遠く。
音楽を通じて、過去と未来が繋がる。
現在を経て、彼方から、彼方へと。
一筋の、大河のように。

この祈りも、いつしか未来のどなたかに伝わるだろうか。
その片鱗でも。

こげ茶色の、木目のような質感の、もっくりとしたサウンドに乗せて。
協奏曲をまるごと、
耳から歓迎しよう、
鼻から息を抜いて、
全身を作品にくるませよう。

悠久の時代を、旅するように。